見た夢の日記。

自由きまま。日常から非日常まで幅広く渡り歩く。

憂いの蝶

今日もまたふらりと

夜の街を歩く。

 

いったい自分は何のために

生きているのかと思う。

 

でも生きなければ…と

思うので生きている。

 

死んだような目をしながら。

 

大人を相手に体を売っている。

 

今日は「お姉さん」を相手に、

また性的趣向を満たしてあげる。

 

その代わり、泊めて、世話してもらう。

 

そんな日々がもう何日続くだろう。

 

「はぁ、旦那が単身赴任ばっかで

相手してくれないって俺に言われてもなぁ」

 

そんなことをボヤきながらその

「お姉さん」の家に向かう。

 

なぜ、自分がこんな生活をしているかと

言うと、率直に言えば大切な人が

死んだからだった。

 

あの日は酷かった。

自分の恋人は自己管理が

甘かった。危なっかしいし

いつも注意していた。

 

それなのに、夜中にコンビニまで

出歩いたらしい。

 

そのおかげで帰り道に

誘拐され、レイプされた。

 

犯人は捕まっている。

もともとSNSで個人情報を

公開していた彼女はストーカーされ、

挙句レイプされ、耐えきれず

自殺してしまったのだ。

 

俺にとっては彼女がすべてと言っても

過言ではなかったし、絶望もした。

俺も自殺しようとした。

 

何年も大切にしてきた彼女が

他の男に襲われ、自殺した。

 

この事実だけでも俺は

哀しみ、絶望を感じていた。

 

しかしながら、俺には死ぬ勇気が

なかった。微塵もだ。

 

だから家出した。

そのまま野垂れ死にするつもりで。

 

だが、それは赦されないことらしい。

街をふらついていると

「お姉さん」に目をつけられた。

 

「泊めてあげるから慰めて」と。

俺はもう心も壊れかけていたし、

 

半ばどうでもよかった。

もういっそ殺してほしいくらいだったのだ。

 

だから、「お姉さん」達を何人抱いても、

俺は何とも思わなかった。

 

俺は「お姉さん」方の快楽製造機に

なったのである。

 

 

そんなこんなで、今日も

「お姉さん」の家に出向いている。

もう何人目かもわからない。

 

「こんにちは」

チャイムを鳴らすのも夜中なので

はばかられる。スマホ

電話をかける。

 

「あらいらっしゃい」

そう言ってドアから顔を見せたのは…

 

彼女そっくりな女の人だった。

「…」流石に黙り込んでしまった。

 

なにせ自分のトラウマである

彼女と瓜二つだからだ。

 

俺は思わず「彼女」の名前を

口にしてしまった。

 

すると「お姉さん」は目を丸くして

こう言ったのである。

 

「妹のこと…?」と。

 

そう。この人は「彼女」の

「お姉さん」だったのである。

 

 

 

さすがにそのまま商売、というわけにも

いかず、2人でリビングに座りお茶を

いただく。

 

「いや、驚きました。

彼女から年の離れた姉がいるとは

聞いていましたが…」

 

そういうと、「お姉さん」は

少し俯き、でも心のうちを

隠すような笑みを浮かべながら、

 

「…えぇ、私もよ、あの子に彼氏が

いるのは知っていたけど…」

 

「お姉さん」が実家から離れて

ほどなくして事は起こったらしい。

 

そういえば、葬儀に呼んでもらった時に

見た気がする。

 

「…なんか、ちょっと心苦しいですね、

いくら商売といえども、彼女の、

姉を相手にするのは…なんというか…」

 

「わかるよ…それに君、さっきから

なんだか泣きそうな顔してるもの…

きっとあの子のこと思い出してるんでしょ」

 

俺はそんな顔してたのかと内心驚きながら

「ええ…ほんとに、俺はあの時

生きる希望を失いましたからね…」

 

そういうと、お姉さんは嬉しそうに

微笑みながら、

「あの子も、もう何ヶ月も経つのにまだ

思ってもらえて喜んでるわ…私なら、

喜ぶわ。間違いなくね」

 

「そうですか…しかし

護ってあげられなくて、ほんとに

後悔しか残ってないです…」

 

「大丈夫、そんなこと気にしなくても…

でも、最愛の人を失ったあなたの

心はきっと誰にも埋められないものね、

ごめんなさい…」

 

彼女と同じように表情が豊かで、

それでも大人っぽさがあった。

 

「いえ、気にしないでください。

少しずつ、受け入れることにします」

 

嘘だった。が、泣き叫んでも

後悔しても、彼女が戻らないのは

事実だった。

 

「それじゃあ、俺はこれでー」

と、帰ろうと矢先、

「お姉さん」は俺の腕をつかんだ。

 

「だめ、これからしばらく

泊まっていってくれない?」

 

俺は困惑した。

 

いくらなんでも彼女と

瓜二つの「お姉さん」を抱くわけにも

いかなかった。

 

「私のこと、あの子だと思っていいから、

お願い…したいようにしていいから…ね…?」

 

俺は拒んだ。あなたは彼女ではないと。

しかし「お姉さん」に俺を

帰す気はないらしい。

 

どうしても抱いて、体の疼きを

止めてほしかったようだ。

 

 

 

 

※この物語はフィクションですので、

実在の人物、団体名等は関係ありません。